開店前にブロロンと車を走らせ実家に行ってきた。
父の髪を切るためだ。
父は今年で八十四歳になる。
顔を合わせれば憎まれ口の雨あられだった父も今や好々爺。
交わす言葉もほとんどなく、話しかけても「あいあい」と笑うばかり。
帰り際に握手をし背中をポンポンと叩き「達者でね!」と言うのがお約束。
「ありがとう」
父はにこりと笑って、そう一言だけつぶやくのもいつものことだ。
縁起悪いと叱られるかもだが、毎度これが最後かもと思いながらカットしている。
だからと言うわけではないが、毎度切り終わると写真を撮らせてもらっている。
ピースサインなんて絶対しないキャラだった父にピースサインを要求してみる。
すると、そのときはこれでもかってぐらいにおどけてみせる。
写真を見た人誰もが「元気そうじゃない!」と言ってくれるようなエネルギーをたたえて。
父に、家族それぞれへの贈る言葉を用意しといてとお願いしておいた。
遺言ではない。
あくまで贈る言葉だ。
話せるうちに、僕がメモしておくからと言うと「あいあい」と父は微笑んんだ。
帰り道、車を走らせながら竹原ピストルの『ぼくの夢でした』を聴いた。
♪大まちがいが大正解
大賛成を猛反対
大失態に大爆笑
大成功を猛反省
君が見させてくれた夢を叶えるところを
君に見せることが ぼくの夢でした
ぼくの夢でした……♪
たまたま聴いたんだけど、なんだか今の自分の気持ちにジャストフィットスムーズイン。
今度、父に聴かせてみよう。
歌っていいね。
音楽っていいね。
さてと。
仕事しましょうかね。
股旅。