昨夜、息子(五歳一ヶ月)がベッドから落ちた。
幸いベッド下に布団が置いてあったので事なきを得たわけなのだが、そこに必ず布団を置くことを忘れずにいたのは妻ちゃんだ。
いつ何時でも、もしかしたら……と不測の事態をイメージして彼女は行動している。
正直なところ、ボクは息子は今まで落ちたことはないし、もう五歳なんだし落ちるなんてことないんじゃないかなぁ……と高を括っていたのだからゾッとする。
そしてゾッとしたとともに感動もした。
息子はちょっとだけ泣き声をあげたが、どこを痛がるでもなく御不浄へ行き、それからすぐにグッスリと眠りに落ちた。
ひょっとしたら、このように知らず知らずのうちに、妻ちゃんに息子も僕も命を助けられているのではないか……だなんてことを想像したからだ。
妻は「そんなことは当たり前だ」と取り合わないが、その彼女の「当たり前」に心動かされるのである。
話はとんと変わる。
中学生の頃、次兄がよく観ていたので一緒になって夢中になった『君は海を見たか」というドラマがある。
ショーケンこと萩原健一主演で脚本は倉本聰。
その他スタッフは「北の国から」のチームが担う人間ドラマだ。
それから三十数年、ボクの知っている限りでは一切再放送されなかったのだが、ここに来ていきなりケーブルテレビで再放送が始まったのだから小躍りが止まらない。
何しろ、ボクがこのドラマから受けた影響は計り知れないものがあるのである。
あまり口にしたことがないが、実はボクはこのドラマを見て日本大学藝術学部を志したのだ。
あれは高校生のとき。
次兄に借りた「君は海を見たか」の脚本を読んだのが切っ掛けだった。
読んでいると画面が脳裏に浮かびテーマ曲であるショパンの「ワルツ第10番ロ短調」が流れ出すのだ。
そんなことは今までなかったから驚いた。
文章でココまでイメージを喚起させることが出来るのだ。
まさに天才の所業とはまさにこのことだなと感じた。
学生時代、しょうもない脚本をいくつか書いたが、その全てはこの「君は海を見たか」を教科書代わりに書いたものだ。
その後いくつかの脚本に目を通したが、これを超えるものにはまだ出会っていない。
上手いとか下手とか好きとか嫌いとか、そういう視点ではない上での話だ。
そして、今第三回の途中までを観たのだが、三十数年経ってもそのパワーは全く衰えておらず、ボクの胸を搔きむしりまくってくれる。
ただ視点は変わった。
今はボクも息子を持つ父親だ。
あ、書き忘れたがこのドラマはざっと
“一流企業に務める主人公一郎は早くに妻を亡くし、一人息子の正一、妹の弓子と暮らしている。
正一の世話は妹に任せきりで、家庭など顧みない仕事人間の一郎だったが、正一がウィルムス腫瘍で余命三ヶ月と医師に告げられてしまう。
息子の病気をきっかけに、一郎は父と子のふれあいを取り戻そうとする……”
こんな感じの物語である。
かつてはイメージしても到底届かなかった主人公の父親の気持ちが少しわかるようになった。
だから、みんなショーケン演じる主人公を責めないでおくれよと心底思う。
全十一回、心して観よう。
目をそらさずにね。
こういうドラマ、映画をまた作ってくださいよ。
よろしくお願いします。
あ、金曜深夜に放送中のドラマ『宮本から君へ』はいずれ伝説のドラマに必ずなると思います。
見逃せないですな。